6. 調査結果と提言
6.1 結果

過去に研修を受けたのは17歳から40歳までの女性たちです。最も多いのは17歳から25歳までの若い女性たちです。研修時点で未婚だった17名の女性たちの中には、受講後に結婚し専業主婦となったことで、残念ながら研修で学んだことを生かすことができていない人もいます。研修後1年以内に結婚した人が3名いました。研修を受けたことで、結婚できたのかもしれませんが、彼女 たちも学んだことを社会で生かせていません。

これらの結果から、既婚で定住している女性のほうが研修の成果を生かす可能性が高いので、彼女たちに研修の機会を与えたほうが効果的だと言えます。しかし、紛争によって社会的・政治的な状況が悪化したことから研修を生かせなかった女性たちもいます。成熟した年齢の受講生は、研修で前向きな考え方を学び、家庭や社会の中で生かそうとしています。今後は、受講生たちが社会でどのような役割を担い、貢献しているか、記録していくことも重要です。

モヒラコハートを通して受講した女性たちは、研修以前、辛い経験をしてきた人ばかりです。読み書きができなかったり、自尊心がもてなかったり、自殺未遂をしたり、情緒不安定であったり、家庭が崩壊していたり、とさまざまな問題を抱えた人たちでした。彼女たちは、自分に自信をもち、自立することなど考えられない状況にありましたが、研修を通じて大きく変わり、大勢の前で話すこともできるようになりました。現在村で出会う元研修生たちの活躍ぶりを見ると、かつては苦悩を抱え、自信もなかった女性たちだということが信じられません。

ゆっくりとではありますが、過去10年間で、社会的に良い方向に向かっていることもあります。政府やNGOが遠隔地においても人々の参加を促すような活動を始めています。研修を修了した女性たちは、村に帰った後でNGOの活動に参加したり、村人たちの生計向上に役立つような研修を実施しています。何人かは政府の事業や学校で研修を受けもち、思春期の少女たちには識字教室を、村落開発委員会が行う事業の一環として裁縫や編み物教室を開いている人もいます。

修了生のなかには保健分野で活躍している者もいます。また他の者たちは 酒、賭博、迷信を止めさせるための運動の先頭に立っています。彼女たちは、こうした貢献によって、地域社会で一目置かれるようになりました。研修の最大の成果は、女性たちが自信を身につけたことです。かつて、陰に隠れて涙を飲んでいた女性たちは、今、他の人たちの涙をふく側になりました。

研修後、さらに教育を受けて自分の人生を豊かにした人もいますし、手に職をつけた者もいます。めでたく就職できた人もいれば、村で収入向上に成功した人もいます。モヒラコハートが女性の研修を支援したことは、無駄ではなかったと言えます。しかし、政府やNGOとの調整不足や、定期的なフォローアップができなかったこと、紛争や政治不安が原因で研修の成果を生かすことができなかった人もいます。

6.2 提言
モヒラコハートの支援で研修を受けた女性たちは、今後より効果的な活動を行うために、次のような提言をしています。

1) ジャパ郡のシャンティ・ライは、暴力を振るっていた夫を改心させることに成功し、今は平穏に暮らしています。一方、ドラカ郡のヒラはまだやらねばならないことがまだたくさんあります。女性への暴力をなくすためには、女性たちがグループを組織して監視をしたり、社会に対して圧力をかける必要があります。地域の組織や女性のグループは、暴力の犠牲となった女性の権利をどう守るのか、政策提言をしなくてはなりません。

2) モヒラコハートは障害者支援を主目的としているわけではありませんが、障害をもつ女性たちを優先しています。イラム郡のカビタは障害をもっていますが、研修を受けたことで地元でも一目置かれるようになり、自分で小さな商売をして収入を得るようになりました。しかし、カトマンズの障害者チャンダニは女性グループを結成してみなのために役立ちたいと考えていますが、まだ道半ばです。さまざまな機会の多い首都圏のカトマンズと、機会の乏しいイラムの村では、人々の反応も必要な技術も異なります。研修生の出身地によって教えられる内容も多様でなければいけません。

3)洋裁や編み物に関するナバジョティの研修は初心者向けです。それぞれの地域で必要な衣服を作るだけに必要な技術を身につけるためには、最低2週間の応用のきく研修が必要です。

4)村の女性たちが必要とする知識を与えるためには、リプロダクティブ・ヘルスや家族計画に関する講義に看護師など専門家も加わり、知識や技術を組み合わせた内容にする必要があります。

5) 村で仕事をしていくためには、農業に関する知識も不可欠です。農民には伝統農法をもっと効率よく行うよう働きかけなければなりません。研修中に、季節の、あるいは季節外の野菜や現金作物の栽培に関する技術的また実践的な知識を学ぶことができると良いです。

6)遠隔地から参加する研修生は多くの場合、教育を受けたことがなく、読み書きだけできる程度です。彼女たちが村に戻っても外部の支援なしにひとりで研修の成果を生かすことは難しいです。モヒラコハートは修了生が暮らすそれぞれの郡のNGOや政府の下部組織に、研修を受けた女性に関する情報を提供し、修了生が気軽に連絡し、地元で助言を得られるような仕組みを作る必要があります。

7)ナバジョティ研修センターで行われた6ケ月の寄宿型研修は、とても実用的で役立ったと、全修了生が実感しています。それでも、時が経つにつれて徐々に内容を変えていかねばなりません。また村に帰った後、どのように研修の成果を活用するか発表するための準備期間として最後の1ケ月があてられていますが、この期間に新たな知識や力が身についたとは思えませんでした。それよりも、最後の1ケ月にも研修科目を足して、他の技術を学ぶことができたほうが良いです。

8)さまざまな組織が女性に対する職業訓練を行っていますが、暴力や紛争の被害に遭った女性たちを支えたり、彼女たちが自信をつけること目的としている研修はわずかです。他の団体もこうした研修に協力し、これまで被害を受けてきた女性たちが新しい人生を手に入れることができるようにしてほしいと願います。

6-3. 修了生の声
ラメチャップ郡 ギタ・ドゥンガナ
夫が殺されてから私の人生には暗闇と絶望しかありませんでしたが、研修は光と希望を与えてくれました。これから私も社会のため役立ちたいと思います。

ジャパ郡 ビルマヤ・タマン
私は10年生まで学校に行きました。しかし、この研修で新しいことを習い、学校での勉強は本の上でのことにすぎず、これまでずっと自分は何も知らなかったと思うようになりました。研修で学んだことを村の多く人たちに伝えなければなりません。私はその責任を感じています。

イラム郡 プラティマ・ロハル
経済的な苦境にあったことと、マオイストの人民解放軍への参加を強いられたことが精神的な負担となって、自殺を図ったこともありました。研修で読み書きを含めたさまざまなことを習い、自分に自信がつきました。モヒラコハートとナバジョティ研修センターにとても感謝しています。障害と貧しさのために学校に行くことができなかった私にも研修の機会を与えてくれました。今、私は裁縫を教えて他の人にも技術を伝えると同時に、家族を助けています。

イラム郡 ウルミラ・ライ
家族で唯一の稼ぎ手だった夫が、1年前出稼ぎ先のサウジアラビアで事故に遭って亡くなり、二人の息子は孤児になりました。遺体がネパールに着くのに1ケ月かかりました。素敵な家をもち幸せに暮らすという私の夢は涙に消えました。その頃、私はモヒラコハートの代表と出会いました。彼女のおかげで私は研修を受けることができました。私は自分の小さな子どもたちと、私のような体験をした女性たちとともに苦しみを語り合える友だちになれます。私の涙を拭ってくれたモヒラコハートとナバジョティに感謝しています。

ダン郡 マヌ・グルン
私が実家に行って留守をしていた間に、夫はマオイストに殺されました。2歳の息子は私と一緒にいました。その後の私は道に迷った旅人のようでした。モヒラコハートは私のような紛争の犠牲者を支援しようと、INSECに連絡をとってくれました。それがきっかけで、私はモヒラコハートの支援を受け、ナバジョティで人生に役立つ研修を受けました。私は自信を取り戻し、現在私は警察官として働いています。人生に絶望していた私は今、息子の将来のためにも頑張っています。

資料:年度別受講生リスト(氏名、受講時の年齢、婚姻、出身地、住所、教育、参加の経緯)
2002年度   
1.シャンティ・ライ、35歳、既婚、ジャパ郡、中学卒、家庭内暴力のサバイバー


2003年度
1.マヌ・グルン、25歳、死別、ダン郡、7年生、マオイストに夫を殺害された
2.リラ・タパ、22歳、未婚、バルディア郡、10年生、兄夫婦を国軍に殺害され国内避難民となった
3.パルバティ・チョウダリ、21歳、未婚、バンケ郡、読み書き程度、国軍からマオイストの嫌疑を受け国内避難民となった

2004年度
1.ギタ・ドゥンガナ、40歳、死別、ラメチャップ郡、読み書き程度、マオイストに夫を殺害された
2.シャルミラ・カルキ、18歳、未婚、ラメチャップ郡、読み書き程度、マオイストに父を殺害された
3.チトラクマリ・シュレスタ、17歳、未婚、ゴルカ郡、7年生、マオイストに父を殺害された
4.チャンダニ・バスネット、23歳、未婚、カトマンズ郡、10年生卒、障害者、父と離別
5.ナニショバ・マハルジャン、17歳、未婚、カトマンズ郡、バランブ村、読み書き程度、経済的理由

2005年度
1.サヌマヤ・グルン、18歳、未婚、タナフン郡、10年生卒、紛争被害者
2.リラ・バタライ、17歳、未婚、ジャパ郡、7年生、両親と離別
3.アンジャナ・ラマ、23歳、未婚、マクワンプール郡、非識字、人身売買被害者
4.デビルピ・ブダマガル、33歳、死別、,スルケット郡、非識字、国軍に夫を殺害された
5.ギタマヤ・タパ、28歳、未婚、タナフン郡、7年生、紛争被害者
6.デビマヤ・ヨンジャン、20歳、未婚、ドラカ郡、10年生卒、国軍に父を殺害された
7.デビマヤ・タパ・マガル、18歳、未婚、タナフン郡、10年生卒、紛争被害者
8.ヒラ・タマン、24歳、離別、ドラカ郡、読み書き程度、家庭内暴力のサバイバー
9.ミナ・ブジェル、17歳、未婚、ドラカ郡、非識字、紛争被害者
10.カマル・ライ、20歳、未婚、サンクワサワ郡、読み書き程度、経済的理由

2006年度
1.プラティマ・ビカ、22歳、未婚、イラム郡、非識字、経済的理由ならびに紛争被害者
2.サクンタラ・チョウダリ、35歳、死別、ナワルパラシ郡、読み書き程度、マオイストに夫を殺害された
3.ニタ・ライ、20歳、未婚、イラム郡、7年生、紛争被害者
4.ガンガ・タパ、23歳、離別、カスキ郡、読み書き程度、夫が蒸発
5.ウシャ・チョウダリ、36歳、離別、ジャパ郡、夫が蒸発
6.ビルマヤ・ネムバン、28歳、未婚、ジャパ郡、10年生卒、紛争被害者
7.ウルミラ・ライ、35歳、死別、イラム郡、読み書き程度、夫死亡

参考文献
Deuba, Aruju Rana. 2006. “A Changing Roles of Nepali Women due to conflicts and its impact”, Kathmandu: Samanta Institute for Social and Gender Equality, Samanta Studies, No.6.
INSEC. 2006. Human Rights Year Book 2006.
INSEC. 2007. Human Rights Year Book 2007.

翻訳:吾妻佳代子、監訳・訳注・編集:田中雅子