出版によせて
この本には、路上で暮らす子どもたちの日々の暮らしと彼らの夢が、ありのままに記されています。きっと路上で暮らす子どもたちに関心のある方々の心に触れることと思います。子どもたち自身が語る生い立ちのほか、家族を離れて路上で暮らすようになった理由、将来の夢、また子どもたちの多様さが聞き取りに基づいて紹介されています。ストリート・チルドレンのための活動にあたっては、かつてストリート・チルドレンだった青年や今もストリート・チルドレンである子どもたちとの協働が不可欠ですが、ここで紹介されている情報もまた、こうした活動にとって役立つに違いありません。

どんな調査も、社会が変化する方向性を示すことを本来の目的としているはずです。しかし、社会変化を目指す団体がその結果を分析し、導かれた結論を実際の活動に取り入れなければ、調査が役に立ったとは言えません。「開発途上国」と呼ばれる私たちの国では、調査によって裏付けられた結論から実践へとつなげることは、まだ一般的ではありません。それゆえ、私たちはこの本が示唆することを活動へと結びつける責任があります。ストリート・チルドレンの実態をあらわにした著者の努力を評価し、本書の出版が成功することを祈ります。

元 中央児童福祉委員会[i]委員
現 セーブ・ザ・チルドレン・ノルウェー・ネパール事務所
子どもの権利保護アドバイザー
シバ・プラサード・ポウデル


推薦文-経験と事実の要約
私がこの本の著者であるレワット・ラジ・ティミルシナさんを紹介された時、彼はまだ若い青年でしたが、年のわりに落ち着いていました。彼自身のストリート・チルドレンとしての人生経験が、彼を分別ある大人にさせたのでしょう。ともに活動するようになり、彼を支える人たちとも知り合う機会を得ました。私たちの国が、レワットさんのような青年たちの勇気と情熱、その献身的な取り組みを結集させることができていたなら、大きな変化を起こしていたでしょう。

路上で暮らす子どもたちに対してレワットさんが続けてきた努力と決意は生半可なものではありません。彼の判断はいずれも彼自身の経験から生まれたものです。レワットさんの最初の著作『路上の人生』ではストリート・チルドレンの生活と彼らを取り巻く者のやりとりが描かれています。本書はさらに深く、子どもたちの隠された事実を明らかにしています。
この本はストリート・チルドレンのために活動する団体が、効果的に事業を計画し、実施するためのヒントを与えています。著者が問いかけているのはとても単純なことです。真実を知ってほしいということだけです。彼の問いが学問的な命題のようであったなら、子どもたちに再び苦しい体験をさせていたかもしれません。この本がそのような形をとっていないことを、私はうれしく思います。ここに込められたメッセージが力強いのは、これまでにも筆者がストリート・チルドレンとしての体験を本や報告書に書いたことがあるからというだけではなく、日夜問わず彼らの生活がよりよくなるために活動を続けているからです。この本では著者自身の経験も綴られています。これはストリート・チルドレンたちの経験と事実の要約なのです。
                        
元 Friends of Needy Children (FNC)[ii]
現 The ISIS Foundation[iii] ネパール事務所長
プラルハード・クマール・ダカル


謝辞
Jagaran Forum Nepal (JAFON) がストリート・チルドレンについて広く社会に知ってもらうための本を出版するにあたり、「平和のための市民による紛争の記録プロジェクト」の一環として支援をして下さった庭野平和財団にまず感謝の気持ちを伝えます。またこの本の舞台である『僕らの家』の運営資金を援助して下さっているシャプラニール=市民による海外協力の会[iv]にも感謝しています。これまで繰り返し助言をして下さったハリ・クリシュナ・ダンゴルさん、クマール・ライさん、ゴパル・ゴラ・チャンドラさん、ラジュ・マハルジャンさん、ラジュ・ラマさん、ビシャル・ラマさんにもお礼を言いたいと思います。

私たちに出版を熱心に勧めてくれた「平和のための市民による紛争の記録プロジェクト」のコーディネーター田中雅子さんにも心から感謝しています。未だ完璧な形とは言えませんが、この本は彼女の夢の一つを実現しようとしたものです。

当初、この本の出版にあたっては路上で暮らす子どもたちの生活をとらえた写真を載せる予定でいましたが、国内・国外での写真の収集を試みたものの、さまざまな理由でネパール語版に写真を掲載することができませんでした。計画通りにはいかなかったものの、カメラを提供して下さったネパールの、また外国にお住まいの支援者のみなさんにお礼を申し上げます。

準備段階から関わったふたりのストリート・チルドレンと、生い立ちの聞き取りや写真の撮影を了解してくれたすべての路上で生活する子どもたちと青年たちにも心から感謝しています。出版までの作業は容易ではありませんでしたが、多くの困難を乗り越えて出版することができたことはこの上ない喜びです。最後に、本が完成するまでの過程を支援して下さったすべてのみなさまに感謝を言葉を捧げます。
Jagaran Forum Nepal (JAFON)代表
レワット・ラジ・ティミルシナ


まえがき
この本の取材には二ヶ月ほどかかりました。多くのストリート・チルドレンが協力してくれたおかげで何とかまとめることができたものの、振り返れば、良い思い出も、悪い思い出もあります。読者のみなさんにもその一部をご紹介しましょう。
生い立ちを尋ねるために子どもたちの後を文字どおり追いかけねばならないことがありました。ある時は彼らが話をするのを嫌がり、包み隠さず事実を話してもらうには根気が必要でした。しかし、聞き手が路上生活の経験者だったことで、何とかやりとげることができました。路上生活の光と陰の両面を盛り込み、子どもたちの生活を記録することは容易ではありませんでした。写真を撮るために真夜中に出かけたこともありました。彼らの多くはシンナー中毒[v]にかかっており、意識がもうろうとしている彼らに写真を撮ることの承諾を得るのは難しいことでした。

多くの援助団体が昼間にストリート・チルドレンの写真を撮っていますが、自分の団体の広報や財源確保に利用するだけで、子どもたちに利益が還元されることがないことに、彼らは不満を持っています。そこで、我々の場合は、路上生活の経験がある者だけが撮影すること、写真が誤用されることはなく、子どもたちのためだけに使われることを約束した上でようやく了解を得ました。写真を撮らせてもらうために、現金やごちそう、服を与えたり、将来見返りとして何かしてあげると約束する団体もあるので、子どもたちの中にはJAFONにも同じような要求をする者がいました。

私たちは子どもたちのさまざまな表情を写真にのこしたいと考えました。そこで、彼ら自身が好きな時に、仲間同士で写真が撮れるよう、30人のストリート・チルドレンと青年たちを対象に、カメラの扱いを教える「写真教室」を開きました。参加者の中から熱心な10人をまず選び、さらに7人にカメラを渡し、仲間の一日を撮影してもらいました。14、15歳のストリート・チルドレンがマオイストの行事のために旗を作っている現場に出くわした者がいましたが、マオイストが撮影を許しませんでした。

準備段階から関わったふたりのストリート・チルドレンは、こうした過程において、筆者、編集者、撮影指導をしてくれた写真家、経済的支援をしくれた団体と同等の貢献をしてくれました。

この本はネパールのストリート・チルドレンを取り巻く状況を10年前と比較する際に役立ちます。10年に及ぶ紛争が彼らの暮らしにどんな影響を与えたか、国家とマオイストの紛争によって彼らが路上で暮らさざるを得なくなる引き金要因とは何か、現在のストリート・チルドレンはどんな夢や希望を抱いているのか、彼らは朝から夜までどのように一日を過ごしているのか、政治デモや交通ストライキ、外出禁止令が出た時に彼らはどう対処しているのかといった疑問に、本書は答えようとしました。この本はストリート・チルドレンのために活動するすべての団体にとって役立つことでしょう。

[i] Central Child Welfare Board (CCWB) は、ネパール政府、女性・子ども・社会福祉省内で子どもの権利の保護を目的に設置された委員会。http://ccwb.gov.np/
[ii] Friends of Needy Children (FNC)は、1996年に設立されたネパールのNGOで、子どもや青年が自分の権利を享受できる社会をつくることを目指している。http://www.fncnepal.org/
[iii] The ISIS Foundationは、1997年に設立されたアメリカのNGOで、ネパールとウガンダにおいて子どもの保健と教育分野の支援をしている。ネパール国内ではカトマンズのほか、カルナリ地方のフムラ郡で活動している。http://www.isis.bm/
[iv] 1972年に設立された日本のNGO。ネパールのほかバングラデシュとインドで活動している。http://www.shaplaneer.org/
[v] 靴底を修理する接着剤など手軽に入手できるものを利用している。ストリート・チルドレンのシンナー中毒の実態についてはCWIN(2002)の調査結果を参照のこと。