序文
2001年11月23日、ダン郡の郡庁所在地ゴラヒにある国軍司令部をマオイストが攻撃しました[i]。事件から3日後、政府はネパール全土に非常事態を宣言し、外出禁止令を出しました。他地域で非常事態宣言が解除された後も、ダン郡では断続的に4年半もの間、夜間外出禁止令が出されていました。その間に起きた事件の記録から、この『紛争の爪あと』という本が生まれました。関係者のプライバシーに配慮して、事件と直接関係のある写真は掲載していませんが、私たちSEEDの活動地で起きた事件をもとに、紛争で混乱する市民たちの暮らしや思いをここに記録しています。11年前に始まった紛争は、2006年11月21日にマオイストと政府の間で和平協定が成立し、平和構築のために関係者による努力が続けられています。これは非常に喜ばしいことです。いつか再び非常事態宣言が出されることがないように祈りましょう。

紛争の苦しみを経験した子ども、青年や女性、そして彼らを支援する仕事をしてきた団体の職員たち、彼らすべての協力により生まれた本書は私にとっても特別な意味があります。本書はそのような人々でも本を書くことができること示し、彼らに自信を与えるでしょう。そして、また一般の方々にもSEEDの活動を理解していただく機会になると思います。本書の出版により、勇気を持って自らの苦悩を公にする紛争被害者が増えていくと私は信じています。

本書のための取材は、関係者にとって全く新しい仕事であり、初めての試みでもあったので、かなりの精神的重圧になったかと思われます。しかし、彼らの忍耐強い、命がけの仕事のおかげで、本書は出版されることになりました。取材班のリーダーであるシュリラム・チョウダリさん、メンバーのアムリタ・チョウダリさん、レカ・サハさん、プルナ・チョウダリさん、デベンドラ・チョウダリさん、アプサラ・パリヤルさん、マン・バハドゥル・チョウダリさん、サントス・チョウダリさんに感謝します。そして取材に応じて下さった方々にも感謝の気持ちでいっぱいです。彼らは自らの人生経験を公にすることに協力してくれました。

本書の出版を支援して下さった庭野平和財団、「平和のための市民による紛争の記録プロジェクト」のコーディネーター、田中雅子さんにお礼を申し上げます。出版費用だけでなく、取材に関する助言や、技術面でも支援もしていだきました。また、編集の段階で助言をくれた親友クリシュナ・サルバハリさんに心より感謝します。今後も皆様から支援、助言をいただければ幸いです。

ダン郡 トゥルシプル市
SEED会長バギラム・チョウダリ

[i] 2001年7月、政府とマオイストは停戦を宣言し、8月から和平交渉を行っていたが、11月23日のゴラヒ攻撃で、マオイストは停戦を破棄した。11月26日、政府は国家非常事態宣言を発令し、マオイスト掃討作戦として当時の王室ネパール軍を全面展開させた。