5.7 「村に戻って働きたい」ミナの望み
「シマル
[i]の木陰に座って、人夫は深呼吸した」。作詞家で歌手でもあったジボン・シャルマのこの歌はとても有名です。ドラカ郡のラムバハドゥル・ブジェルは最近、この歌をよく口づさみます。荷物を担いで彼は大きく深呼吸をします。しかし、彼が休憩できるシマルの木陰はありません。

ラムバハドゥルは、土ぼこりと排気ガスのひどいディリバザールの家具屋で人夫をしています。マオイストが家にやって来て食事を出せと要求したり、彼らの仲間に入れと強制するようになったので、村で住み続けるのは危険だと思い、カトマンズにやって来ました。16歳の娘ミナ・ブジェルも一緒でした。父はポーターとして、娘は食器洗いをしてカトマンズでの生活を始めました。それでも、彼女は生活が落ち着いたら、村に戻って学校に行く希望を捨てていませんでした。家が貧しかったため一度も学校に通うことができませんでしたが、何か手に職をつけられたらいいのにと思っています。でも、誰が学校にも行ったことのない者にそんな機会を与えるというのでしょう。

ミナは、いつの日か神様が彼女の願いを叶えてくれるに違いないと信じていました。そんなある日、親戚のひとりが、ナバジョティ研修センターについて教えてくれました。センターの責任者であるシスター・テレサに会いに行ったところ、研修費用の一部を自分で負担しなければならないと言われ、お金のない彼女はがっかりしました。彼女が研修についてあきらめかけていた時、モヒラコハートが支援を申し出ました。そうやって彼女が6ケ月間の研修を受ける夢が叶ったのです。

ナバジョティでの研修はミナの人生に知識の光を与えました。今では読み書きができるようになりました。彼女の人生に新たな希望が生まれました。研修後わずか1週間のうちに、カトマンズのカーペット工場で働く子どもたちを支援するナジェラト協会
[ii]で仕事をすることになったのです。日雇いではなく月給取りになったことに自分でも驚きました。そのお金で父を助けることができるようになりました。

ミナは真面目に働きましたが、ずっとカトマンズにいたいとは思いませんでした。それよりも、村で女性たちに研修で学んだ知識や技術を伝えたいと考えました。村に行き、自分で習った技術を教えることができたらよいのに、とミナは計画を立てていました。マオイストが1ケ月間の一時停戦をしていたダサイン休暇中、彼女の職場も休みになったので、村に帰ることができました。

ミナは、村で母から祝福のティカ
[iii]をしてもらうことをとても楽しみにしていました。しかし、村に着いて2日もたたないうちに、マオイストがやってきて人民解放軍に加わるよう強要しました。幸か不幸か彼女はその時体調を崩していたので、何とか彼らの誘いから逃れることができました。しかし、村の治安状況は悪く、緊張は高まる一方で、村から郡庁所在地までの道も交通ストなどで閉鎖されて移動もできませんでした。村で女性たちに研修で習ったことを教えることなど、とてもできそうにありませんでした。ミナは結局村を出てカトマンズに逃げ帰りました。

帰省している間、村に電話がなかったために、職場に連絡をとることができませんでした。彼女が欠勤している間に職場では、他の人が彼女の替わりに雇われていました。仕事を失ったミナの人生に再び暗い影がさしました。

ミナが元の状況に戻らないようにと、ナバジョティ研修センターが彼女に救いの手を差しのべました。彼女が次の仕事を見つけるまでという約束で住まいを提供し、センターの仕事を手伝わせています。残念ながら、ミナは村の女性たちに研修の成果を伝えることはまだできませんが、希望を失ってはいません。早く平和になって村に戻り、そこで働く日を心待ちにしています。


[i] キワタ科の太い幹をもつ熱帯樹木。Bombax Ceiba。
[ii] Najerath Society。詳細不明。
[iii] 額に赤い粉をつける祝福の印。