2.5 「夢は医者になること」プラティバ
プラティバ・ルインテルはモラン郡
[i]出身の13歳です。ブダニール・カンタにあるシャンティ・セワ学校の4年生です。彼女は、カトマンズのガウリガート[ii]に家族で部屋を借りて住んでいます。

2006年8月17日、雨の中、私たちはプラティバの帰りを待っていました。スクールバスから降りた彼女は傘を持っておらず、急ぎ足で歩く彼女を私たちが追いかけました。私たちは彼女の両親に会うため、一家が借りている部屋を訪れました。

「あなたが住んでいる部屋はなんて遠いの?」と尋ねる私に、「何て返事をすればいいのかわかならいけど、私にも遠く感じるわ」とプラティバが答えました。

30分ほど歩いて、ようやく彼女たちの部屋に着きました。部屋には母親のインディラしかいませんでした。父親は日雇い労働をしていて、まだ戻っていませんでした。大きな窓があるおかげで、部屋は明るかったです。

プラティバの妹バルクマリも、シャンティ・セワ学校の4年生です。私たちはバルクマリに将来何になりたいか尋ねました。「何になりたいかって言われても、そんなことまだ考えたことがないな」という返事でした。プラティバに同じ質問をしてみると、しっかりした答えが返ってきました。「私はお医者さんになりたいです。私たちの学校にはハンセン病にかかっている人がいます。病気を患っている人たちの苦しみを見て医者になろうと決めたのです」

母親のインディラは、近所の家で洗濯をする仕事を終えて帰ってきたところです。「娘は医者になりたいと言うけれど、毎日食べさせていくのがやっとです。本や鉛筆、ノートを買ってあげることさえできなかったんです。どうしたら彼女の夢を叶えてやれると言うのでしょう」

インディラは以前、3人の娘を近所の公立校に通わせていました。しかし、在籍料を払えなかったので学校を続けることができませんでした。彼女はどうしたら子どもたちに教育を受けさせることができるのか悩んでいました。そんな時、近所の人がシャンティ・セワ・グリハのことを教えてくれました。早速申し込むと、幸運にも彼女の子どもたちは入学を許可されました。彼女はこの学校の教え方が気に入っています。末息子も来年から同じ学校に通わせたいと思っています。子どもたちは学校で朝食も出してもらえるし、良い教育を受けていると思っています。

プラティバの家族は、モラン郡の村で小さな茅葺の家に住んでいましたが、両親は仕事を求めて市場のある町に引っ越しました。父親が日雇いの仕事をしている間、母親はジャングルに行って薪を集め、市場で売りました。彼らは13~4年の間そこで生活しましたが、市場がとても小さかったのでそこで毎日仕事を見つけるのは困難でした。しばらくして、ジャングルで勝手に木を切ることが禁止されました。マオイストによる武装闘争が活発になってきた時、プラティバの両親はその町を去ることに決めました。

プラティバは、彼女が村にいた頃のマオイストの様子について説明してくれました。「マオイストは夜やって来て、ごはんを作れと言いました。私の母は何度も彼らのために料理をしました。彼らが武器を見せて私たちを脅すので、とても怖かったです。だから、私は両親に、村から出て行こうよと言いました」

プラティバの叔父はカトマンズに住んでいました。彼の計らいで、2004年12月、カトマンズに引っ越しました。プラティバの母は言います。「私たちのような貧乏人は、どこで暮らしても大変です。カトマンズでは村ほど仕事を探すのが難しくありません。食器洗いや洗濯の仕事をすれば、日に100ルピー稼げます。子どもたちは村にいた頃よりずっと幸せそうです。叔父さんにもしょっちゅう会えます。今私たち家族は、この新しい場所で落ち着いて暮らしています」

プラティバは村の学校のことを思い出します。「あの学校で教え方はあまりよくなかったです。だから、私たちはよく試験に落ちました」とプラティバが言うと、妹のバルクマリも「カトマンズの学校の教え方が好きです。シャンティ・セワ学校はとてもきれいで、部屋の壁に飾りがあるし、校庭には花がいっぱい咲いてます」と言います。

カンチャン・ポカレルという女の子がプラティバと同じ家に住んでいて、プラティバの宿題を手伝ってくれます。彼女はプラティバたちのことを「あの子たちは英語が苦手です。村の学校で勉強していたせいでしょうね」といいます。

家にはテレビがないので、隣の家がテレビをつけると、それを窓からのぞき見しています。「お金が充分にあったら、私たちもテレビを買いたいです」と、プラティバの母親は言います。それでも、娘が学校で習ってきた歌や詩の朗読を聴くと、とても幸せな気分になれます。

プラティバの家から戻っても、ひとつのことが私の頭を離れませんでした。「果たしてプラティバの医者になりたいという夢は叶うのだろうか」


[i] ネパール東部平野の郡。
[ii] カトマンズ市内北東部。