2.3 フムラからカトマンズに来たサタン
サヌ・バンダリは、彼女の18歳の長男をマオイストに誘拐されてから、眠れない夜が続きました。まだ7歳だったサタンは、母の涙を見るのが耐えられず、彼も一緒に泣きました。

サタンの父は、彼がまだ小さい頃に亡くなりました。夫を失ってから、子どもを育て、一家を支えていくことは、サヌにとって、とても大変なことでした。それでも、2人の息子を見つめると、彼女は安らぎ、心の痛みや悲しみを忘れることができました。しかし、マオイストが長男を誘拐した時は、昼も夜も泣き続けることしかできませんでした。

幸運なことに、2日後に長男のマダンはマオイストのところから抜け出し、家に戻ってきました。サヌは息子が無事に戻ったことをとても喜びました。マダンはサヌに、マオイストは子どもたちも誘拐するので、サタンのことが心配だと言いました。ふたりは、サタンをカトマンズへ送ることに決め、カトマンズからよく村にやってくる男性にサタンを預けました。

サタンはまだ幼く、彼は母親のそばで遊ぶのが好きでした。彼を遠くに行かせることについて、母親も心を痛めました。しかし、村はとても危険な状態だったので、彼女はサタンを安全で平和な場所へ送った方がいいと判断しました。サタンが村を離れる時は、友達、最愛の母、姉、兄たちと別れるのが辛くて、見送る側も彼自身も泣きました。

サタンは普通の農家に生まれました。母親は一日中農地で働きました。兄のマダンはその手伝いをしていました。姉はフムラの公立校に通っていました。サタンのカトマンズへの8日間の旅は、彼にとって初めての長旅でした。カトマンズに着いた時、どこも明かりがいっぱいで、新しい広い世界へ来たように感じました。彼をフムラから連れてきた人がシャンティ・セワ・グリハを知っていたので、サタンはその学校の2年生のクラスに入りました。

サタンは村の家の住所を知らないので、母親に手紙を送ることができません。彼は、母親に渡す手紙と写真をすでに準備しています。彼をカトマンズへ連れてきてくれた男性に手紙を預けようと思い、彼がここに来る日を待っているのです。サタンは男性の名前がナンダラル・バハドゥール・シャヒだということだけ知っています。彼の連絡先も、どんな仕事をしているのかも知りません。

サタンは、学校のピクニックでサンク、ゴダワリ、タンコット、スンダリジャル、バクタプル
[i]など、カトマンズ周辺のいろいろな場所を訪れました。現在彼は寄宿舎に住んでいます。彼の滞在費、食費、洋服、そして教材はすべて学校が負担しています。彼の担任のラビナは、「サタンはとても人なつこく、行儀の良い子です。しかし、彼が時々寂しそうにしているのを見ると、こちらも悲しくなります」と言います。

サタンは言います。「僕は医者になりたいです。村には、学校や病院の数がとても少ないんです。医者がいないので、ほとんどの人は祈祷師や薬師がくれる薬草を使うしかありません。だから僕が医者になって、村の貧しい人や病気の人を助けたいです」

サタンは自分がシャンティ・セワ・グリハから受けた援助に感謝しています。だから、彼は貧しい人々や病気の人々のために、自分もいつか働きたいと思います。彼は、村や友達のことを忘れることはありません。もしこの国で紛争が起こらなかったら、彼がカトマンズに来ることもなかったでしょう。サタンのようにまだ幼い子どもたちに、いったい何の罪があるというのでしょう。それなのに、彼は村を遠く離れ、一人で暮らさなければならないのです。彼のフムラからカトマンズまでの旅によって、彼の人生の夢が叶えられたわけではないのです。


[i] サンクはカトマンズの東の郊外の村、ゴダワリは南の郊外の村、タンコットは西の郊外の村、バクタプールはカトマンズの東にある古都。