1. 記録プロジェクトの背景、目的、方法
紛争とその実態については世界中で無数の本が出版されていますが、紛争当事者か、あるいは紛争とは直接関わりのない研究者が書いている場合がほとんどです。そのような本には、一般の市民の視点からの記録はごくわずかしか含まれていません。どんな紛争も人々に困窮をもたらし、そうした経験を記録する必要があると考えられていますが、そのような本はあまり見受けられません。

とりわけネパール国内にはそのような本は全くありません。だからこそ、貧しく、力のない、底辺で生活をする人々の思いを記録するのは重要な仕事です。そんな思いから、「ダン郡における紛争の影響と生活再建の試み」というテーマで本を書く作業を始めました。

<目的> 
私たちの調査の目的は4つありました。
1) 紛争被害者の生活実態と彼らの経験を記録する。
2)紛争の実態と平和構築のための活動を記録する。
3)記録活動で学んだことを分かち合う。
4)記録活動を通じて紛争被害者を力づける。

<方法>
この本は、紛争被害者の日記や体験談、事件の調査など直接的な観察をもとにしています。事実関係を確認し、さらに真実に近づくために、過去に出版された本や報告書も参照しました。

<調査地>
学術研究ではなく市民の記録なので、調査地域を選択するにあたって、私たちが普段活動しているところで調査を始めることにしました。SEEDがダン郡で活動している場所を選択しました。私たちが自身が出かけて行って、記録の過程で助言をすることができるからです。

<参加者> 
この記録活動のためだけの特別な調査グループは結成しませんでした。調査地域の子ども、女性、成人、老人たち自身が参加者になりました。ただし、記録活動がうまく進むように、チームリーダーと記録を担当するボランティアを募ることにしました。
 
紛争の被害を受けた人たちから協力の意思を取りつけると、私たちは実際に記録活動に参加するボランティアを選びました。地域の住民であること、可能な限り紛争被害者であることを条件に、最近高等学校卒業資格試験を合格した者から、12年生の学生までを対象としました。彼らは2006年7月29日、ダン郡のトゥルシプール市に集まり、研修を受けました。『平和のための市民による紛争の記録プロジェクト』のコーディネーター田中雅子さんが彼らに日記や文章の書き方を指導をしてくれました。研修によって調査グループの意欲が高まりました。そしてこれまでに行ってきた活動が整理され、確実なものとなり、記録活動の助けとなりました。