著者まえがき
平和は人類にとって最も大切なことですが、一方で、紛争もまた人間が起こす社会変化だという側面があります。歴史をさかのぼって見ると、世界は古代から大きな紛争と変化を繰り返しています。これは自然なことです。社会のあらゆるところで暴虐や不正行為が激化しており、恒久の平和のためと称して正当化される紛争は避けることができないと言われています。事実、社会変化を促すのは一般市民であり、民衆への圧力が社会変化を引き起こします。しかしながら、歴史には一般の人々の貢献はめったに書かれることはなく、政治家や紛争を起こした者たちの行動、歴史だけが記録されるのです。民衆の血、汗、貢献が扱われることはほとんどありません。このような想いから、SEEDはこの小さな本を通じて、ダン郡の人々の記録を始めました。この調査と記録によって、少しでも多くの人々が次の世代に自分たちの紛争体験を公表する勇気を得ることを願っています。

SEEDの理念は、民衆の心の声に支えられており、貧しいダリットや先住民族を側面から弁護することを活動目的にしています。この小さな本には、彼らが過去に背負った苦境についてのエピソードが記録されています。紛争により困窮状態にある子どもや女性たちの経験を、とりわけ多く取り上げました。紛争の状況下で、彼らはどうやって心の平静を保つことができたのか?彼らはどのように生活し、他の人々に平和に生きていくすべを教える勇気を持ち続けることができたのか?このような疑問への答えがこの本には書かれています。

この本を読んだ後、必ずや読者は、紛争の中でダンのタルーやダリットがどのような恐怖を味わったのか、現実のものとして感じることができるでしょう。この本には、小さな子どもたち、女性たち、青年たち―彼らの紛争状態における生活、歌、話、絵が紹介されています。これらに接することで、調査をした私たちも力づけられました。

この本は、高い教育を受けた者だけが物を書き、本を出版できるのだという先入観を変えるものと信じています。それだけではありません。紛争によって被害を受けた子どもと女性たちの身の上に現実に起きている苦難を聞く中で、こうした記録活動を継続する必要性を感じました。そして苦難の経験者自らが記録活動に関わったことで、彼らも知識や技術を得ました。

SEEDは紛争下で活動をしてきましたが、記録と本の出版の面ではとても遅れています。そんな中、「平和のための市民による紛争の記録プロジェクト」で技術面、財政面で支援をしてくださった庭野平和財団と、そのコーディネーターの田中雅子さんに感謝します。彼女の支援なしではこの出版は不可能でしたし、紛争で心の傷を負った子どもや女性たちの声が外に出ることもなく、私たちの記録活動の成果もノートや非公式な報告書という形でしか残らなかったでしょう。そしてこの記録の協力者アムリタ・チョウダリさん、レカ・サハさん、プルナ・チョウダリさん、デベンドラ・チョウダリさん、アプサラ・パリヤルさん、マン・バハドゥル・チョウダリさん、サントス・チョウダリさんに深く感謝の気持ちを表したいと思います。

本の編集で貴重な時間を費やしてくださった、クリシュナ・サルバハリさんに心から感謝します。そして本のために貴重な時間を費やし、序文を書いてくださった文化人類学者のダンバル・チェムジョンさんにも感謝します。この活動に直接または間接的に関わってくれた子どもたち、女性たちを含めすべてのダンの市民にこの本を捧げます。
 
「平和のための市民による紛争の記録プロジェクト」
ダン郡チームリーダー
シュリラム・チョウダリ