出版によせて
私たちは、家父長制社会に生きています。女性たちは家庭でも、社会でも支配される側です。彼女たちの貢献が認められているとは言えません。男性だけではなく女性も、女性自身の問題を理解しようとしません。ネパールの人口の半分以上が女性です。国の発展が必要なら、女性にも男性同等の機会が与えられ、男性と女性が対等なパートナーとして認められなければなりません。残念ながら、現実はこれとは正反対です。パートナーであるべき一方の性は、軽視されるだけなく、基本的人権さえ剥奪されています。

女性は人身売買や家庭内暴力の被害者です。被害者の女性たちは、そういう運命から救われなければなりません。彼女たち自身が問題意識をもち、自立する力をつけるために適切な知識と技術を身につけなければなりません。それからようやくネパールは発展への道を歩み始めることができるでしょう。ナバジョティ研修センターとモヒラコハートの活動は、そのための努力の一例です。この本に私たちの試みが紹介されています。

研修を受けるのにふさわしい人たちに、私たちの研修について伝えて下さっている、モヒラコハートのバグワティ・ネパールさんとメンバーのみなさんに心から感謝しています。元研修生の活躍について記録し、この本を準備してくれたアルナ・チョウダリさんにもお礼を言います。

遠隔地の農村に住む女性たちの生活を向上させるべく努力が必要なのは、私たち個人、女性、また社会です。目覚めましょう。私たちはひとつです。頼れる者のない人、貧しい人、教育を受けられなかった人を支えましょう。そして、私たちの社会と国を変えましょう。

ナザレ修道会
ナバジョティ研修センター
シスター・テレサ・マドゥセリ
カトマンズ市バルワタールにて


はしがき
この本は、ネパールに住むさまざまな人々によって始められた「平和のための市民による紛争の記録プロジェクト」の一部です。プロジェクトは、ネパール各地から性別、年齢、階級、民族、カースト、宗教の異なる人々の紛争体験を集め、記録することを目的に始まりました。特定の人々による見方だけが記録として遺されることを避けるため、紛争をさまざまな角度から考察しようとしました。ネパールでは、一般の人々が身の回りの出来事を自分の言葉で記録することはまれです。そのため、人々は民衆の視点から歴史を学ぶ機会がありません。このプロジェクトは、記録の過程に人々が実際にかかわり、集めた情報を活用することで、後世に伝えることを目的としています。参加者は自分で題材を選び、エッセイ、日記、詩、絵、写真という手段で表現しました。

この本の著者、アルナ・チョウダリさんはナバジョティ研修センターの元研修生です。彼女の研修中また研修後の活躍を見て、もっとたくさんの女性たちを支援するために「モヒラコハート」(女性の手)という団体が生まれました。モヒラコハートは有給職員のいないボランティア団体ですが、農村の女性たちを多数支援してきました。しかし、これまで元研修生が村に戻ってからの活動についてモニターすることができませんでした。2006年6月、モヒラコハートの代表バグワティ・ネパールさんは、アルナさんを元研修生の女性たちの活動現場に送ることを決めました。アルナさんは、遠隔地に住む元研修生たちに会って面談をしながら、研修後の変化について記録しました。元研修生の女性たちは、彼女がカトマンズから遠く離れた村にいる自分たちに会いに来てくれたことに驚きました。アルナさんの訪問は、元研修生たちの再会のきっかけを作り、苦楽を分かち合う機会になりました。

アルナさんは、元研修生たちの奮闘について詳細な聞き取りをしましたが、当初、彼女たちの個人的な話を文章にするのをためらいました。バグワティさんは、代表としての役割を果たすだけでなく、アルナさんが記録をする過程を支えました。最終的に、アルナさんは、他の元研修生の話だけでなく、自らの人生について書くだけの自信を得ました。

この本はモヒラコハートと、元研修生が達成したことを共有するために出版されました。はじめに、モヒラコハートとナバジョティ研修センターの研修内容について紹介します。本の主要な部分は、元研修生の事例と過去の経験から得た教訓です。研修によって女性たちの人生がどのように変わったのか、その後、彼女たちがそれぞれの場所に戻ってどんなに奮闘したのか、読者のみなさんにわかっていただけることを期待します。この本は、モヒラコハートの著者と元研修生の協力によって完成しました。クリシュナ・サルバハリさんは編集を手伝ってくれました。出版に際しては庭野平和財団の助成を受けました。最後にモヒラコハートのメンバーのたゆみない努力をたたえます。

2006年10月
平和のための市民による紛争の記録プロジェクト
コーディネーター
田中雅子


謝辞
一般に、投資に対する利益は会計処理をすればすぐに算出できますが、人材育成のための投資が実を結ぶためには長い年月がかかります。モヒラコハートが家庭内暴力、紛争、その他の苦境にある女性たちの人材育成を目的に投資をするにあたっては、さらに長い時間がかかります。その上、成果を数量的に把握するのはとても困難です。それでも、技術や知識の向上を目的とした、密度の高い研修の成果を何年か後に見ることはできます。投資した後、研修を受けた女性たちが何をしているか、追跡調査することも私たちの大切な仕事です。

モヒラコハートは、非営利のNGOで、過去8年にわたり、遠隔地に住む女性たちがナバジョティ研修センターの6ケ月研修で学ぶ機会を提供してきました。研修を受けた女性たちの現状を把握することは、団体の責任でもあると私たちに呼びかけ、それにかかる費用を負担してくれた、モヒラコハート設立以来の仲間である田中雅子さんに心から感謝します。この調査で、どんな場所にでも出かけ、面談や話し合いをし、元研修生それぞれの実態について考察を試みたアルナ・チョウダリさんにも感謝します。彼女自身、私たちの支援で研修を受けた最初の研修生だったので、彼女の変化の軌跡についても掲載することにしました。他の元研修生についてはアルナさんが現地訪問の結果をまとめました。

私たちは、苦境にある女性たちに、同じような境遇にある他の女性たちがどうやって状況を改善していったか伝えることを目的にしています。したがって、科学的・数量的調査ではなく、元研修生の村で参与観察をしたり、インタビューを通じて現状を把握しようとしました。私たちの努力を支え、この調査にも貴重な助言を下さったナバジョティ研修センターのシスター・テレサに感謝します。今後とも、モヒラコハートとセンターが協力を続けることを期待します。

訪問調査中、体験を語ってくれた元研修の女性たち、関係団体のみなさんに心から感謝します。最後に、原稿を編集し、出版物の体裁に整えてくれたクリシュナ・サルバハリさん、原稿を入力してくれたナルビル・デワンさんとプレム・プラカシュ・チョウダリさんにも心からお礼を申し上げます。同じような仕事をする人だけでなく、あらゆる読者のみなさんにこの本が役に立つと信じています。

モヒラコハート代表
バグワティ・ネパール