4-4. ビニタの願い
ウラハリ村のビニタ・チョウダリはとても喜んでいました。なぜなら夫が現金収入を毎日持って帰るからです。タルーの伝統的な生業である農業では利益が上がらないので、夫のブッディラム・チョウダリは鶏を売買する商売を始めました。タルーの村ではふつう農業以外の仕事はほとんどしません。そのため農閑期は仕事がなく、収入がない状態になります。しかし、夫が鶏の商売を始めると、ビニタの家計は良くなっていきました。彼女は私たちにも幸せな日々がやって来たと思うようになりました。

ある日の夕方、夫ブッディラムはダン郡で鶏を買いネパールガンジで売って帰ってきました。夫婦は地酒を飲みながら苦楽を語り合っていました。2001年11月26日に国家非常事態宣言が出されてから、何日も経っていませんでした。その時事件が起きたのです。

彼女の村のあるバフンの地主をマオイストが暴行したようでした。その事件を調べるために村にやってきた国軍は、他の村人たちと一緒にブッディラムを逮捕しました。ビニタは「私の夫は無罪です。事件のあった時、村にいませんでした」、といって泣き叫びました。「捕まえるなら私も連れて行って」と言いながら、彼女は国軍が夫を乗せたジープにぶら下がりました。しかし彼女は放り出されました。

夫が捕まった翌日、ビニタは国軍事務所に行きました。夫を捕まえた軍人は「君の夫が無罪なら釈放するから、心配する必要はない」と言い、彼女を送り出しました。そして数週間後、捕まっていた他の村人はすべて解放されました。しかし、ブッディラムは解放されませんでした。

ビニタは再び国軍のオフィスに行きました。しかし彼女が知っていた兵士は転勤してそこにはおらず、別の兵士が言いました。「君の夫はここにはいないよ」

ビニタの夫が捕まえられてから4年以上が経ちました。しかし彼女の夫への愛情は消えていません。彼女はふぅーとため息をつきます。「いつか戻ってくる時が来るかもしれない」。ビニタはSEEDが支援するウラハリ村の女性グループのメンバーでもあります。彼女は収入を得るために畑仕事をし、豚を飼っています。そこから二人の息子と娘を学校に行かせています。ビニタは自分の望みを語ります。「野菜の栽培は季節によって波がある仕事です。いつでも収入のある仕事を身につけることができればいいのに」

夫が行方不明になってもビニタは自分で自分を励ましています。いったん家の外に出れば、彼女は笑顔を忘れません。女性グループの会議でも彼女は活発です。「私の夫を行方不明にさせた神様が、今度は返してくれるかもしれません」。これが彼女の希望です。ビニタは続けて祈ります。「国にいつも平和が訪れますように。すべての人の命が簡単に奪われませんように」